第二十一回 労働安全衛生と化学物質管理
日本ケミカルデータベース株式会社
コンサルタント 北村 卓
化学物質のリスクアセスメント (2) リスクアセスメントの手順
今回はリスクアセスメントについての実際の手順について解説いたします。
情報の入手
リスクアセスメントの実施では、情報の入手が欠かせません。ハザード情報はSDSを参考しますが、使用する現場の作業標準・手順書や施設・設備の配置などのように、自社の取扱い実態も重要な情報です。定量的なリスクアセスメントには作業環境測定結果なども使われます。事故・災害は頻繁に起こるものではない(起こっては困る)ので、自社の事例に限らないで災害事例・災害統計などの公開情報の入手もします。重大な災害事例は公表資料などから入手可能ですが、些細なしかし重大な事故につながりかねない事例(ヒヤリハット等)の情報を入手は容易ではありません。化学品の供給者や生産会社などに問い合わせることも情報の入手方法の一つです。
ハザードの特定
SDSのラベル要素(絵表示)からは有害性を発現するばく露経路はわかりません。有害性の要約にあるばく露経路を考慮してリスク低減措置を考えることが必要でしょう。
単一物質からなる化学品と異なり、一般に複数の成分からなる化学品では、有害性区分にはGHSのルールに従った標記がされています。
リスクの見積もり
指針に示されているリスク評価方法は次のものです。詳細は次回に記します。
- 重篤度と可能性の度合に応じたリスクマトリクスから見積もる
- 重篤度と可能性の度合を数値化し数値演算でリスクを見積もる
- リスクグラフの利用
化学物質による疾病ではリスクを次の手法で見積もります。指針は1の方法が望ましいとしています。
- ばく露濃度の測定結果をばく露限界と比較する。ばく露濃度がばく露限界を下回れば、リスクは、許容範囲内とする。
- 相対的に尺度化した有害性とばく露のリスクマトリクスからリスクを見積もる。
リスク評価の留意事項
指針は化学品のハザード情報のほかに、次の情報をリスクアセスメントに用いるとしています。
- 化学品の性状: 固体、スラッジ、液体、ミスト、気体、固体の場合、塊、フレーク、粒、粉体など
- 製造量・取扱量 化学品の種類ごとに把握
- 作業の内容
- 作業の条件: 取扱う温度、圧力
- 関連設備の状況: 設備の密閉度合、温度や圧力の測定装置の設置状況など
- 作業への人員配置の状況: 負傷・ばく露を受ける可能性のある者の人員配置の状況
- 作業時間
- 換気設備: 局所排気装置・全体換気装置・プッシュプル型換気装置の設置状況、制御風速、換気量
- 保護具: 配布状況、着用義務を履行させる手段の運用状況、保守点検状況
- 保有していれば作業環境濃度、ばく露濃度の測定結果、生物学的モニタリング結果
指針の化学物質のリスクの見積もり方
- GHSで示されるハザード分類に則して行う
- 化学反応によるリスク(発熱等の事象)にも留意
- 物理的危険性は、化学物質の感度・威力・保管量等を考慮
- 健康有害性は、取扱量、濃度、接触の頻度等、ばく露量とばく露限界との比較、侵入経路等
- 負傷・疾病のリスク見積りでは、生理学的要因にも配慮
- その他参考とする事項: 例えば、
- 安全衛生機能の信頼性及び維持能力
- 安全衛生機能等を無効化(無視)する可能性
- 予見可能な意図的・非意図的な誤使用・危険行動の可能性
- 有害性が立証されていない場合でも、一定の根拠があれば有害性の存在を仮定
指針の見積り時の留意事項
- 負傷・疾病の対象者と内容を明確に予測する
- 最悪の状況を想定して負傷・疾病の重篤度を見積もる
- 負傷・疾病の重篤度は、共通の尺度として休業日数を使用
リスク低減措置の検討及び実施
法令に定められた事項があれば必ず実施し、続いて次の優先順位でリスク低減措置を検討・実施
- 高ハザード化学品の使用中止又は低ハザード化学品への代替
- 運転条件の変更、形状の変更
- 衛生工学的対策:: 防爆構造化、安全装置の多重化
- マニュアルの整備等の管理的対策
- 個人用保護具の使用
- 合理的に実現可能な程度に低い」(ALARP)レベルにまでリスクを低減する。死亡・重篤な後遺障害の可能性が高い場合は措置を実施する。弱者に対しても配慮する
- 死亡、後遺障害等の重篤な疾病のリスクの低減措置の実施に時間を要する場合は、暫定的な措置を直ちに実施する
- リスク低減措置には、残留リスクを見積もることも含まれる
記録
次の事項を記録する
- 調査した化学物質等
- 洗い出した作業又は工程
- 特定したハザード
- 見積もったリスク
- 設定したリスク低減措置の優先度
- 実施したリスク低減措置の内容
- 実施した日付及び実施者を明記する