第十一回 労働安全衛生と化学物質管理
日本ケミカルデータベース株式会社
コンサルタント 北村 卓
◎女性労働基準規則
労働基準法第64条の3は、妊娠中の女性および産後一年を経過しない女性(妊産婦)を、妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならないとしており、女性労働基準規則の第2条の第18号にある化学物質に関する業務は以下のとおりです。
(1) 第一類と第二類の特定化学物質の中からPCBやアクリルアミドなどを取扱い発散する場所で、特化則で呼吸用保護具の使用が定められている業務と施行令第21条で作業環境測定を行うべき作業場と定められた場所で、第三管理区分に区分された場所の業務
(2) 鉛化合物を発散する場所での、呼吸用保護具を使用させて行う臨時の作業を行う業務
(3) 指定された第一種および第二種の有機溶剤を発散する場所で、有機則で送気マスク又は有機ガス用防毒マスクの使用が定められている業務と作業環境測定を行うべき作業場で、第三管理区分に区分された場所における業務
(1)の特化則の対象物質は、塩素化ビフエニル(別名PCB)、アクリルアミド、エチルベンゼン、エチレンイミン、エチレンオキシド、カドミウム化合物、クロム酸塩、五酸化バナジウム、水銀若しくはその無機化合物(硫化水銀を除く。)、塩化ニツケル(II)(粉状の物に限る。)、砒素化合物(アルシン及び砒化ガリウムを除く。)、ベータ―プロピオラクトン、ペンタクロルフエノール(別名PCP)若しくはそのナトリウム塩又はマンガンの14物質(群)です。
また、(3)の有機則の対象物質は、エチレングリコールモノエチルエーテル(別名セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ)、キシレン、N・N―ジメチルホルムアミド、スチレン、テトラクロルエチレン(別名パークロルエチレン)、トリクロルエチレン、トルエン、二硫化炭素、メタノール又はエチルベンゼンの12物質です。
この規定は、妊産婦以外の女性に関しても準用されます。
女性労働基準規則は、母性保護の視点から重量物取扱い業務とともに有害物の発散する場所の業務が対象です。このうち有害物に関する規定は、女性労働者の妊娠・出産・授乳機能に対して悪影響を及ぼすおそれのある物質が、一定濃度を上回る作業場での就業の禁止です。
この、母性保護規定の対象となる有害物は、GHS分類で生殖毒性の区分1または授乳に対するあるいは授乳を介して影響のあるものと生殖細胞変異原性の区分1に該当する物質です。生殖毒性や生殖細胞変異原性に対する知見は必ずしも十分ではありません。
GHS分類結果で生殖毒性、生殖細胞変異原性の有害性クラスを持つときには、SDSに記されますので、これを参照して女性労働者による化学物質の取扱いでは、事業者は予防的対応を取ることが望まれるでしょう。この規則は、専ら女性労働者の母性保護を目的としていますが、ばく露の程度によっては男性に対してもこれらの物質は有害ですので、男女を問わず労働者の健康を保護するための、特化則や有機則の求めに応じた事業者の自主的対応が必要でしょう。
化学物質に関する省令(特別規則)では、これまでにあげた省令以外に、じん肺則、鉛則、四アルキル鉛則もありますが、ここでは説明を省略いたします。また、じん肺則とも関係しますが、ナノマテリアルに関する規制も検討されています。ナノマテリアルの有害性は、物質の化学的特性というよりも物理的特性によるところが大きいので、これまでの化学物質規制とは異なった規制になるのではないでしょうか。