化学製品(物質)の輸出入業務と外為法 第7回
日本ケミカルデータベース株式会社
コンサルタント 北村 卓
Ⅶ. 外為法の違反事例
外為法違反では、当該企業だけでなく企業の責任者に対しても刑事罰と行政処分があり、どちらにしても企業は致命的な影響を蒙ることになります。
下の表に経済産業省が公表する最近の外為法違反事例の一部を抽出しました。多くは仕向け地が北朝鮮ですが、中国・ミャンマーへの不正輸出もあります。化学製品に関わる事例は、1996年の北朝鮮へのフッ化ナトリウム、フッ化水素酸の輸出以後は公表されていません。表中にインフォーム違反となっているものは、通関時に税関で疑問をもたれ経済産業省を通じてインフォーム要件を示されたにも関わらず、それに従わず同じ貨物の輸出を企て摘発されたものと思われます。
摘発時期 | 仕向地 | 品目 | 該当項番 | 企業 | 概要 | 懲役(執行猶予) | 罰金 | 輸出禁止 |
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2011年2月 | 北朝鮮 | ニット生地 | 別表第2の2 | 商事会社 | 未承認,迂回(大連)輸出 | 7ヶ月 | ||
2011年12月 | 北朝鮮 | 奢侈品(タバコ他) | 別表第2の2 | 商事会社 | 未承認,迂回(大連)輸出 | 80万 | 2ヶ月 | |
2011年6月 | 北朝鮮 | 奢侈品(中古車) | 別表第2の2 | 個人 | 未承認、迂回(韓国)輸出 | 1年 (4年) | ||
2011年9月 | 中国 | 特殊ポンプ | 別表第1 3項 | 機械 | 未許可、虚偽申告 | 200万 | ||
2010年5月 | 北朝鮮 | 奢侈品(缶コーヒー) | 別表第2の2 | 貿易会社 | 未承認,迂回(大連)輸出 | 3年 (4年) | 7ヶ月 | |
2010年6月 | 北朝鮮 | 中古パワーショベル | 別表 1 | 未許可、虚偽申告、迂回(大連)輸出 | 1年6月 (3年) | 120万 | 1年1ヶ月 | |
2009年6月 | ミャンマー | 磁化特性自記装置 | 別表1 16項 | メーカー代理店 | インフォーム違反、迂回(マレーシア)輸出 | 1年 (3年) | 300万 | 2ヶ月 |
2010年6月 | 北朝鮮 | 化粧品、食料品他 | 別表第2の2 | 商事会社 | 未承認,迂回(大連)輸出 | 1年6月 (3年) | 100万 | 5ヶ月 |
2010年9月 | 北朝鮮 | 奢侈品(中古ピアノ) | 別表第2の2 | 商事会社 | 未承認,迂回(大連)輸出 | 1年6月 (3年) | 80万 | 6ヶ月 |
2010年7月 | 北朝鮮 | 奢侈品(中古ピアノ) | 別表第2の2 | 商事会社 | 未承認,迂回(大連)輸出 | 1年6月 (3年) | 150万 | 6ヶ月 |
2009年12月 | 北朝鮮 | 化粧品、食料品他 | 別表第2の2 | 未承認,迂回(大連)輸出 | 2年 (3年) | 200万 | 5ヶ月 | |
2009年6月 | ミャンマー | 磁化特性自記装置 | インフォーム違反 | 2年 (4年) | 700万 | 7ヶ月 | ||
以下は事例から別表第一関係の一部を抽出 | ||||||||
2007年 | 中国 | 無人ヘリコプター | 別表1 4項 | メーカー | 無許可輸出 | 100万 | 9ヶ月 | |
2006年 | マレーシア | 三次元測定装置 | 別表1 2項 | メーカー | 無許可輸出、迂回(シンガポール) | 2~3年 (5年) | 4500万 | 2年6ヶ月 |
2003年 | イラン | ジェットミル | 別表1 4項 | メーカー | 無許可輸出 | 2年6月 (5年) | 1500万 | 2年 |
1999年 | 中国 | 測定装置 | 別表1 2項 | メーカー | 無許可輸出、仕向け地偽装(韓国) | 10月 (3年) | 200万 | 1ヶ月 |
1996年 | 北朝鮮 | フッ化ナトリウム、フッ化水素酸 | 別表1 3項 | 個人 | 不正輸出(託送品)、緊急支援米輸送船を利用 | 20万 |
表には輸出者に対する処分例も記しました。刑事罰として複数の被告(主としてその事業の担当者やその事業を管掌する役員)に対しては,執行猶予付きではあるものの懲役刑と罰金刑が併科されています。そして、企業に対しては行政処分として直接間接を問わず全ての貨物に対して適用される輸出禁止措置が取られています。たとえ数ヶ月であっても事業に対する影響は大きく厳しい措置ということができます。多くの輸出製品を持つ企業には、命取りにもなりかねないということができます。
経済産業省は違反事例の分析で、不注意等による無許可輸出等が目立ってきていることを指摘し、その要因として①該非判定の誤り、②社内教育の不徹底や輸出許可等の知識不足、③許可証の種別、少額特例等の適用誤り、④海外研修生受入れ、仕様書等提供時等における役務許可の認識不足、⑤出荷管理の不徹底、⑥一般包括許可証の適用誤り、⑦仕向地の解釈の誤りなどをあげています。この要因の中には、上表の違反事例には当てはまらないものもあるので、公表された事例だけでなくその他に多くの違反事例を含めての分析結果と思われます。
「①該非判定の誤り」では、輸出者はメーカーによる誤った該非判定結果に依存した結果だけでなく、輸出者自身による判定の誤りも指摘されています。直接輸出を行うわけではないメーカーは、輸出の経験が少なかったり、社内に輸出管理体制ができていなければ、誤りを犯す可能性が高まります。直接輸出を行わないメーカーであっても、誤った該非判定から販売先に多大な迷惑をかけ信用を落とすことにもなりかねないため、社内でダブルチェックを行うなどの方法で、正確な該非判定を行うこともも求められるでしょう。しかしメーカーに輸出経験が乏しければ、該非判定を誤ることが考えられます。
貨物が化学製品の場合には輸出者がメーカーに組成の開示を求めることが必要になる場合がありますが、企業秘密としてこれを歓迎しないメーカーもあります。日頃から輸出の可能性のある貨物についてはメーカーと輸出者の間でコミュニケーションを取り、両者がそのことを了解しておくことが必要でしょう。また、組成が明らかであれば、輸出者もメーカーからのパラメータシート等を鵜呑みにせず、該非判定の内容が最新の法令等により判断が行われているかどうかを、確認することができます。
該非判定の誤りは、社内教育の不徹底・輸出許可等の知識不足・輸出管理部門と営業部門の意志疎通の欠如・社内におけるダブルチェック体制の欠如等により生じていると言われています。コミュニケーションの重要性は会社間だけでなく社内でも必要なことがわかります。企業における安全保障貿易管理体制の問題が大きく関わっているということができます。
貨物の仕様を熟知しないで輸出することは外為法上極めてリスクの高い行為と言えます。自社製品以外は直接の輸出者にはならず製品を熟知するメーカー等に輸出を依頼することも外為法違反を回避する一手段になります。どうしても自らが輸出者にならざるをえない立場で貨物の仕様に確信が持てなければ、経済産業省やCISTECに事前に相談することも外為法違反を回避するための一つのやり方と思われます。